2022/05/22 13:39
<茶唄の生まれた狭山丘陵>
狭山丘陵は、東京都と埼玉県の都県境に3,500ha(東京ディズニーリゾート全体が100haなので広いです!)を誇る自然豊かな地域です。
アニメ『となりのトトロ』のモデルとなった舞台といわれ、この一帯は「トトロの森」との愛称も。
今でも狭山丘陵には茶畑が点在します(所沢市HP)
さて、この地域でのお茶づくり(=狭山茶)がスタートしたのは、1800年代前半。
当店の起源にあたる繁田家もこの地で1812年に茶業を興しました。
狭山丘陵にて祖業・繁田園による茶摘みの様子
そして、本日の本題です。
この地域に言い伝わる有名(?)な茶唄のワンフレーズを紹介します。
それは「色は静岡、香りは宇治よ、味は狭山でとどめさす」。
狭山のお茶屋さんや地元の方しか知らない唄かもしれませんが笑
ところで、なぜ、このような唄が生まれたのでしょうか。
そのわけは、お茶づくりの歴史にあるようです。
今では日本三大銘茶と呼ばれる静岡・宇治・狭山。
その歴史を紐解くと、まず静岡茶は1681年、徳川家へ初めて献上されたとの記録があります。
また、日本茶業の変革ともいえる青製煎茶製法は、京都・宇治にて1738年に発明され、宇治茶は当時、江戸で一大ブームをつくりました。
他方、狭山はそこから一世紀前後も遅れての後発参入。
当然ですが、先行する有名産地に負けないお茶づくりが必要です。
結果として、狭山地域では味わいの決め手となる「狭山火入(さやまびいれ)」を開発。
茶葉の一部が焦げることさえ恐れない高温により、その芯へと火を入れる製造方法は力強い味わいを生み出し、この技術もあって狭山茶は後発ながらも三大銘茶の仲間入りを果たします。
繁田園でのお茶づくりの様子
繰り返しますが、当店の祖業の地は狭山です。
しかし現在、当店で扱うお茶の産地は、狭山は一部のみ。
原料の大半は、鹿児島と静岡の茶葉です。
というのは、当店に引き継がれたDNAは産地でないからです。
それは約200年前、静岡・宇治に追いつけ追い越せと、狭山丘陵の生産者が懸命に努力した「とにかく味にこだわるお茶づくり」にあります。
ということで、いましばらく、当店の味自慢<あじさやま>のご紹介にお付き合いいただけますと幸いです。
<香りと味わい>
<あじさやま>の最大の特徴。
それは、分かりやすい香ばしさと上品な甘みの両立。
強火で芯まで熱を通した力強い焙煎香は、香りが出にくいとされる水出しでも確かな香ばしさを感じさせます。
また、釜炒り茶の特徴であるスッキリとした味わいに上質な抹茶を贅沢に加えることで、やさしい甘みと柔らかな渋み、そして後味には残らない僅かな苦みが、深みのある味わいへとまとめます。
鮮やかな水色も涼しげです
手作業にて丁寧かつ贅沢に上質抹茶をブレンド
最近、水出し茶が人気です。
一年中、冷蔵庫へ冷たい日本茶を常備するお客様も増え、店頭で水出し茶の問い合わせを受けることも多くなりました。
そして、お薦めの水出し茶は数あれど、通年お取り扱いのある商品のなかで、個人的に最も好きな水出し茶が<あじさやま>です。
伝統的な煎茶製法では生み出せないパンチのある香りと奥深い味わい。
水出し初心者の方に、また日本茶に飲み慣れた方にも、一度お試しいただけますと幸いです。
温かい<あじさやま>にも根強いファンが
<モノづくり>
<あじさやま>の原料は、釜炒り茶と抹茶です。
まず主原料の釜炒り茶。
当店の釜炒り茶は、全て「全国茶品評会出品茶」の入札販売会にて仕入れをおこないます。
「全国茶品評会」とは、「各年の全国No.1(=最高品質)の茶葉を各種別ごとに審査・決定」する場です。
全国茶品評会に出品された茶葉は「出品茶」と呼ばれ、審査会の後、全国の茶業者が参加する入札方式によって販売されます。
最高品質を目指して製造された茶葉が所狭しと並びます
釜炒り茶の生産量は、国内の緑茶生産量の0.02%と非常に少なく、単一地域の生産者さんのみで高い品質を維持するのは難しい。
そこで当店では毎年、全国各県から最高品質を目指して集まった生産者さんより、公平な入札会をとおして茶葉を調達させていただきます。
大量生産・大量消費のサイクルにはない、日本茶専門店だからできること。
生産量は限られますが、高品質な釜炒り茶を適価にてお届けする方法です。
そして、どちらかというと脇役扱いの抹茶。
しかし当店では、京都・宇治にて300年の歴史を誇る丸久小山園の抹茶を全ての原料に使用します。
理由は単純明快。
名店だから、ブラント産地だから、ではなく、味にこだわれば、上質な抹茶が欠かせません。
全国茶品評会において例年、大臣賞(全国1位)を獲得する名店です
京都・宇治での生産現場では、一貫して品質本位のモノづくりがおこなわれます。
「よしず」で日光を遮られた新芽は薄く広がり、渋みが抑えられ、旨味が加わります
生葉が柔らかいため全てが手摘み
しかも茶樹の為に一年に一回、一番茶だけを摘みます
発酵を止めると鮮やかな緑色が茶葉全体に広がります
石臼でじっくりと時間をかけ、きめ細かく碾きます
茶唄に込められた「味へのこだわり」が詰まった「あじさやま」。
その分かりやすい香ばしさからは、伝統製法に負けまいと生まれた狭山火入の歴史を。また、上品な甘みからは、引き継がれる確かな品質本位の取り組みを。
それぞれのモノづくりの一端を「あじさやま」の一杯から感じていただけますと幸いです。