2022/02/20 13:26
15年前、プライベートの九州旅行で立ち寄ったお茶屋さんで一目惚れした急須を(お財布にもやさしい価格だったので即決!)、いまだ自宅で使ってます。
※写真は私物の急須〈15年目の相棒〉を撮影したものです
「急須で淹れるお茶」をお届けする立場になった今、何より「私自身が使い続けて素晴らしい!」と思う急須をご紹介します。
〈作り手について〉
作り手の方にお会いするため常滑を訪ねました。
*実際には押しかけました。。
・陶号「二代目 玉光」 梅原康隆氏
・昭和21年 常滑の窯元に生まれ、初代玉光師にて修行
・常滑焼 伝統工芸士でもあり、2020年には叙勲されています
※千年余りの歴史を誇る常滑焼そのうえでの数々の実績
※この類の賞状は人生で初めて拝見しました
なんと私が長年愛用している急須を16年前に世に送り出した方は、「本場・本物・本格」の名工でした!
※真夏という最中、現場に一緒に入り、説明いただきました
〈商品について〉
※東屋さんの茶海(私物)とも相性抜群の〈相棒〉です
本商品はシャープな印象をもつ「黒」でありながら、常滑焼ならではの落ち着きのある質感をもっています。
そして、本体だけでなく、注ぎ口・開口部・柄の各部分の丸みが強調されたやや小さめの形状は、他の食器類との相性を選びません。
食器類との相性は実はポイントです。
というのは、この急須は緑茶・紅茶・烏龍茶に多用できるため、和洋いずれの食器とも違和感のない色味は使い勝手が良いのです。
*急須の王道「朱泥(しゅでい)」ではなく、あえて「黒」推しをする理由です
また、急須にとって継続使用による茶渋は敵です。
しかし「黒」の場合には、それが目立つことなく、むしろ経年による深い色味の変化を楽しむことができます。
まさに常滑焼が使えば使うほどに価値が上がると言われるゆえんです。
次に、最も特徴的な「蓋なし」という形状についてお話しします。
この商品は「蓋のある急須」から「蓋」を取る、という考えからは作られていません。
16年前に開発をスタートしたきっかけは、お茶を淹れるには「①茶葉」「②お湯」「③茶葉とお湯を入れる器(うつわ)」の「三要素」だけで事足りるのではないか、という梅原氏の素朴な疑問です。
つまり、従来型から「蓋」を引き算した急須づくりではありません。
それは、お茶を「美味しく」「便利」に淹れるために、その「器」に備えるべき最少機能をゼロベースで積み上げていく、という商品づくりです。
*16年前の開発当時、実用新案にも登録
*最少機能のみを優先することによってシンプルなデザインは、長年愛用しても飽きがこないの「機能美」につながります
※原型は「急須」(奥)ではなく、「湯冷まし」(手前)にあると説明いただく
※たしかに注ぎ口は「湯冷まし」に近く、注ぎの垂れにくい作りです
現在ではオープン急須の類似品が数多く販売されています。
そのため、梅原氏の「オープン急須」は新しい分野を開拓した商品として業界でも評価されています。
しかし、発売当初は「お茶の香りが逃げる」「蒸らすことができない」「ほこりが入る」など、根拠のない批判を浴びることも多かったとのこです。
「他人がやってないことをやるためには、そんな意見も受け入れること」と梅原氏は当時の状況を明るく振り返りながら、当初は予測していなかったお客様からの声もありました。
「洗い物や片付けがとてもしやすくなった」
「蓋が欠けると困っていたが、その心配がなくなった」
「急須のなかで茶葉がひらく様子がみられ、その香りも楽しめる」
「手が不自由になって蓋を閉めることができなかったので、ありがたい」
我が家でも、オープン急須は茶葉が捨てやすく、サッと水洗いして、そのまま乾かすだけの管理です。
保管についても、蓋付きのティーポットや急須は目線よりも高いところに置きにくいと思いますが、これは食器棚の場所を選びません。
*ただ実際には食器棚に入れる前に使用することも多いので、やはりデザイン性は大事ですね
すこし長くなってしまいましたが、いずれにしても私の〈15年目の相棒〉は、「名工による新しい発想」から生まれた「オープン急須の起源」と呼ぶに相応しい商品でした。
〈モノづくりについて〉
〈モノづくり〉の話に入る前に、、
東京繁田園では「良品を適価でお届けすること」を大事にしたい、と考えています。
そして、この「常滑焼 オープン急須(黒)」は「本場・本格・本物の手作り感、デザイン性、利便性という価値」と「お客様へお届けしたい価格」のバランスがとれた商品です。
手作りが良いのは分かりますが、ひとつひとつの全工程を職人ひとりが作ったのではこのバランスはとれません。
だからといって人件費の安い海外で大量生産すれば良い、というものでもありません。
もちろん海外産や工業製品が悪いというわけではありません。
以下では、梅原氏の新しい発想によって生まれた商品を、その手作りの良さを残したまま、かつお客様にとって手の届きやすい価格とも両立させる、そんな〈モノづくり〉の現場をお伝えします。
まず、梅原氏が作った急須の原型となる型に対し、手作業で泥漿(ノタ)と呼ばれる土を主原料とした素材を流し込みます。(写真:上)
ここで時間をおき、この型をひっくり返して余分な泥漿(ノタ)を流し、型に残った急須の原型となるものに対して、一つひとつ手仕事を加えていきます。(写真:上)以下、気の抜けない細かな作業が続きます。
下の写真は急須の柄(取っ手)をつける作業です。
乾燥の前段階なので、まだまだ柔らかい粘土の状態です。
「普通の人は柔らかくて持つことさえできない」
「赤ちゃんと接するように優しく包み込むように丁寧に取り扱うんだよ」
「目をつぶって柄をつける感覚が大事(かえって目に頼ると間違う)」
作業を進めながら教えていただきました。
※複雑な手作業を支える大切な道具類
話は変わりますが、柄の下には「玉香」という印が押されます。
先にもご紹介したとおり「玉光」というブランドが由緒ある陶号です。
その「玉光」のエッセンスを感じられるものとして、この商品には「玉香」という名前がつけられます。
「この商品を入口として、陶器の世界へ興味をもってもらえれば」と梅原氏がお話しされたのが印象に残っています。
※〈相棒〉にも印があります(文字が擦れてきていますが)
話を戻しまして、手作業で形づくられた急須は、窯のなかで高温で焼かれることで、強く、固く引き締められます。
※窯の温度は1,000度~1,100度前後
50度の温度差で焼き上がりが全く異なるため、この温度管理にも細心の注意が必要です。
この工程では、焼き締めること以外にも大切なポイントがあります。
それは、この商品の特徴である年月を経て深みを増す「黒色」が、この工程から生まれるからです。
塗料や原料の色素によるものではなく「二度焼き」という技術により「自然由来の黒色」は発色されます。
二度焼きは直近20~30年で生まれた新しい技術です
手作業による急須の原型への整形作業に加えて、窯で焼く工程にも時間と手間を重ねること(まさに二度焼き=二度手間ですね)で「常滑焼
オープン急須(黒)」は完成します。
「蓋なし急須」の類似品は多数あります。
釉薬(ゆうやく)と呼ばれる「うわぐすり」を施した商品(その商品には艶が備わり、それ自体が悪いというわけではありません)、またB品(多少の色味の違いや歪みをもつ商品)を敢えて取り扱うお店もあります。
*B品といえども使えるものを大切に使う、というのは大切な考えです
ただし当店では、他社さんがどうこうではなく、全国の茶畑から良いお茶をお届けするのと同じ役割を急須においても担いたく。
「作り手を訪ね、その想いをお客様へお伝えし、現地との直接取引により間違いのない商品を適価」にてお届けしたいと思います。
今回の訪問で「常滑焼
オープン急須(黒)」に込められた〈作り手〉の想いをうかがい、また〈モノづくり〉の現場に立ち会えたことにより、私自身の〈15年目の相棒〉を自信をもって皆様へご紹介いたします。