2022/02/11 14:50
「深蒸し茶」の作り手はサムライだった?
言わずと知れたお茶の名産地 静岡県。
そのなかでも「牧之原台地」は、今では一大茶園として有名です。
※牧之原台地の茶畑は5,000ヘクタール
※なんと東京ドーム約100個分!(牧之原市HPより)
実はこの「牧之原台地」は「深蒸し茶」の起源と深いかかわりがあります。
そして、冒頭の画像にもあるように「牧之原台地」でのお茶づくり誕生の裏側には、刀や弓を捨てた侍たちの活躍がありました。
まずはそのお話から。
「刀を捨てて鍬(くわ)をとれ」。
慶応3年(1867)、15代将軍・徳川慶喜は大政奉還により静岡市に隠居します。その際、慶喜を警護するため300人の武士たちも同行します。
ところが、その2年後、予想外の事態が起こります。
版籍奉還により、武士たちは突然その任務を解かれて無職になってしまうのです。
この不測の事態のなかで新たなリーダーが生まれます。当時、組頭だった中條景昭(ちゅうじょうかげあき)です。
中條は、武士たちとともに「生きていく」ため、その刀を捨て、牧之原台地での茶畑の開墾を決断します。
※中條景昭
当時、この決断に大きなリスクがあったことは容易に想像できます。
というのは、身分が高いとされた武士たちへ不慣れな肉体労働を長期間にわたって強いれば、当然それに不満を抱く者もでるからです。
しかも、牧之原台地は地元の農民さえ見向きもしない荒廃地だったそうです。台地における水不足は深刻で、育苗・改植用の水はもとより生活に必要な水にも事欠く状態でした。
※武士たちによる開拓の様子(関東農政局HPより)
予想はされたものの、開墾当初から途中離脱者は少なくありませんでした。
それでも中條の強いリーダーシップのもと、荒れ果てた台地の開墾は着々と進められました。
そして、ついに開墾開始から4年後の明治6年(1873)、ようやく牧之原で初めての茶摘みがおこなわれました。
これが今日の牧之原大茶園のはじまりです。
※今も牧之原の茶畑を見守る中條景昭の像(島田市HPより)
開墾の途中、中條には神奈川県令(知事)への誘いもあったとの記録が残っています。
しかし、中條は「いったん山へ上ったからは、どんなことがあっても山は下りぬ。お茶の木のこやしになるのだ」と全くとりあわなかったそうです。
武士の身分を捨て、茶畑の開墾にその身を捧げる。
刀を捨てたとしても、それは「武士」の生き様をみせた生涯でした。
深蒸し茶のモノづくり
さて、当時の中條たちの決意と努力によって誕生した茶畑ですが、他の産地と比較すると実は牧之原のお茶には弱点がありました。
それは、牧之原台地は温暖な気候と長い日照時間が良質なお茶の栽培に適している一方で、葉肉が厚く育ち、渋味(カテキン)が強い茶葉に育ってしまう、という点です。そのため、苦み、渋みの残るお茶になりやすかったのです。
そこでお茶づくりの際に、それまでの蒸し時間よりも長くすることによってその苦み、渋みが緩和され旨味とコクをもつお茶に仕上げる方法が開発されました。「深蒸し茶」の誕生です。
※茶葉の芯まで蒸しあげます、見た目の形はやや粉っぽい形状に
今日の「深蒸し茶」づくりにおいても、その「歴史」を感じることがあります。
当店では「深蒸し茶」も他の商品と同様、提携茶園の原料を中心に製造します。
ただし、その特徴として、他商品と比較し、静岡・牧之原台地周辺の原料割合が多いことがあげられます。
というのは、牧之原台地周辺では、「深蒸し茶」の製造に適した特性を備えた原料が多く収穫されるからです。
高品質で美味しい「深蒸し茶」を作ろうとすると、やはり自然とその「歴史」や「起源」に立ち返る〈モノづくり〉に行く着くのかもしれません。
皆様にも、「深蒸し茶」をお楽しみにいただく際、その湯呑の一端に「刀を捨てた侍たちの想い」や「深蒸し茶開発の歴史」に思いを馳せていただき、またひと味違った「味わい」を感じていただけますと幸いです。
当店の「深蒸し茶:濃いみどり」について
「いつも飲んでいるお茶がないぞ!」
「もう30年以上も飲んでるんだ!」
ある日、店頭でこんなことが起こってしまいました。
原因は、当店が商品に貼付する「濃いみどり」というシールが欠品になり、代わりのシールで対応したことです。
そのため、お客様に「商品の扱いが無くなった」と誤解を与えてしまったのです。
実は「濃いみどり」は、当店で最も「販売量」の多い商品です。
この商品は、毎日のようにお茶を飲まれるお客様向けに、容量を多く(200g)して販売しています。
それでも、200gのお茶を4本も5本もまとめて買っていただけるお客様が多くいらっしゃいます。
このお茶の特徴は使い勝手の良さです。
熱湯でもサッと淹れることができます。
それでも強い渋みや苦みを感じることはありません。
適度な旨味とコク、そして爽やかな後味により、非常に飲みやすいお茶に仕上がっています。
また、和菓子・洋菓子との相性も選ばず、食前・食中・食後のいずれのシーンも無難なくこなしてくれる万能選手です。
寒い冬の時期に、熱い一杯はもちろん、夏の水出し用にもお茶の成分が溶け出しやすい「深蒸し茶」は最適です。
最近では冬でも暖房の効いた部屋が多くなってきたため、一年中、冷たいお茶を飲まれる方もいらっしゃるようです。
※湯呑の底には緑茶成分が残ります(これも大切な栄養素です)
緑茶の有効成分が溶け出しやすいこと、そして水に溶けきらない成分も粉として摂取することができることも「深蒸し茶」の特徴です。
※もちろん産地確認した安心安全な商品を選ぶことが重要です
※ちなみに静岡県・掛川市は、男女とも日本で最もガン死亡率が低い県としても有名です
あえて欠点をあげるとすれば、、なんでしょう。
「香り・甘味」というよりは、「味わい・濃さ・手軽さ」重視のお茶であること。
どうしても深く蒸すことで、お茶本来に備わる「本質香(ほんしつこう)」は弱まります。
それでも、深蒸し茶が庶民の味方であることは間違いなく、是非一度当店の深蒸し茶を楽しんでいただけますと幸いです。